SAPの歴史
ドイツ南西部のバーデンヴュルテンベルグ州で5人のIBM出身者が集まり、エンタープライズソフトウェアの開発を目指す企業を設立しました。彼らのコンセプトは、ビジネスプロセスの統合とリアルタイムのデータ処理を実現するソフトウェアの開発であり、その企業は『Systemanalyse and Programmentwicklung(日本語訳:システム分析およびプログラム開発)』(SAP)と名付けられました。
SAPは、最初の製品としてメインフレーム上で動作する財務会計ソフトをリリースしました。当時、企業の主要な業務だった会計・在庫管理・資産管理などを包括的にシステム化するアイデアに基づいて開発されました。この革新的なアプローチにより、世界で初めての統合型業務基幹ソフトウェアとして大きな注目を浴びました。
SAPは「SAP R/1」に続き、「SAP R/2」を開発しました。「SAP R/2」からは独自のABAP言語を採用し、企業の多くの業務機能を包括的にサポートする能力を獲得しました。これにより、大型業務用ソフトウェア市場での独占地位を築き始めました。このソフトウェアはメインフレーム環境で動作し、データ処理とアプリケーション機能を分離するアプローチを採用して、異なる業界の企業に対応できる柔軟なERPソリューションを提供しました。多くのモジュールを備え、財務・人事・生産管理・物流などの業務プロセスを統合し、ビジネスプロセスの効率を向上させました。
当時の日本企業は世界市場を席巻していた一方、人手不足が課題となっていました。この状況の中で注目されたのがBPR(Business Process Re-engineering)という経営コンセプトでした。BPRは、既存の業務内容・業務フロー・組織構造・ビジネスルールを根本的に改革し、業務効率や生産性を向上させる考え方であり、当時の日本市場において不可欠なアプローチでした。この背景からBPRを実現できるERPが注目され、日本企業での導入が進みました。
「SAP R/2」は大量データ処理に適していましたが、リアルタイム性や柔軟性に欠ける課題がありました。この課題解決をするために、誕生したのが「SAP R/3」でした。クライアント・サーバーアーキテクチャを採用した「SAP R/3」は、ビジネスプロセスを統合し、多様な業務領域をカバーする最初の統合型業務基幹ソフトウェアとして注目されました。クライアント・サーバーアーキテクチャは、分散コンピューティング環境で、クライアント(ユーザー端末)とサーバー(中央データ処理装置)が連携してデータ処理を行う方式です。このアーキテクチャは、リアルタイムのデータアクセスや効率的なリソース管理を実現し、業務プロセスの統合を容易にしました。 同時期にSAP社の日本法人であるSAPジャパンが設立され、SAPの製品が日本市場で導入と展開されました。これにより、日本の企業もSAPの革新的なソリューションを活用し、業務プロセスの効率化と競争力向上に貢献しました。
ビジネス環境が変化し、国際的な展開が増加した中でより多言語・他通貨対応やよりリアルタイムで円滑な処理が求められてきました。その中で、「SAP R/3」の後継であり、WindowsやUNIXなどさまざまなプラットフォームで動作するクライアント・サーバー型のERPパッケージ製品が登場し、2004年に「SAP ECC 5.0」、2006年に「SAP ECC 6.0」がリリースされました。これらのバージョンは「リアルタイムでのデータ処理」や「システム連携」などの機能を備えており、後に多くの企業で統合型基幹システムとして利用されることになりました。
以前のデータベースはハードディスクにデータを格納しており、処理に時間がかかっていました。そこで誕生したのがデータをディスクではなく主記憶(メモリー)に保存する革新的なデータベースの「SAP HANA」でした。 「SAP HANA」の導入により、データへの高速アクセスが可能となり、処理速度が飛躍的に向上しました。このことから、企業はリアルタイムなデータ分析や高速なビジネスプロセスを実現し、迅速な意思決定に寄与しました。
SAP社の「SAP HANA」データベース技術を基盤に構築された次世代のERPソフトウェアである「SAP S/4HANA」がリリースされました。このプラットフォームは、インメモリデータベース技術を活用して、データの高速な処理と分析を実現しています。従来のERPと比較して、バッチ処理を排除し、リアルタイムの情報処理を提供します。これにより、企業はより迅速かつ正確な意思決定を行うことが可能となり、ビジネスプロセスを効率化し、競争力を向上させることができます。「SAP S/4HANA」は、ビジネスのデジタル変革を支援し、クラウドベースの展開オプションも提供しています。
従来の「SAP S/4HANA」は、各バージョンのメインストリームサポート期間は5年間であり、個別のバージョンは5年ごとのアップグレードが推奨されていました。しかし、顧客が技術面・ビジネス面において、継続した最新テクノロジーへのキャッチアップをする必要があることから、2023年からは2年ごとのリリースサイクルと1つのリリースにつきメインストリームサポートが7年間に変更される予定です。
この時期には、企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進するため、さまざまなソリューションが展開されました。2017年には、「SAP Leonardo」が発表されました。これはSAPのデジタルトランスフォーメーション支援サービスで、IoT、マシンラーニング、ビッグデータ、ブロックチェーンなどのテクノロジーを統合し、顧客のビジネスのDX化を支援しました。さらに、2018年には「SAP C/4HANA」が発表されました。この製品は、SAPのCRM(顧客関係管理)ソリューションの再ブランド化を図ったもので、顧客のエンゲージメントに特化したソリューションとして提供されました。
2019年末時点で、SAPは世界全体で約3兆3,000億円の売上高を記録し、SAP社はドイツを拠点として、世界190ヶ国で440,000社以上の顧客を抱えるまで成長しました。特に、経済誌フォーブズが毎年発表するフォーブズ・グローバル2000にランクインする企業のうち、92%がSAPの顧客であり、多くの事業に貢献しております。
従来のオンプレミス版の「SAP S/4HANA」では、利用企業がシステムのアップデートとアップグレードの管理を行っていました。そのため、利用企業はシステムの管理業務に取り組んでいました。このような背景から、「SAP S/4HANA Cloud」が誕生し、クラウドを活用することでSAP社が従来の利用企業が担当していたアップデートとアップグレードの管理を行うことが可能になり、常に最新版を提供できる仕組みが構築されました。
SAPは「SAP ECC」の保守サポート期限を2025年に定めておりました。しかし、導入企業の対応が難航したことによりSAP社は「2025年から2027年へ延長する」ことを再度発表しました。
※オプションである延長保守サービスについては、「2030年まで提供」
現在、国内で2,000社以上が導入しているSAP ERPは、「S/4HANA」など他のシステムに移行する必要があり、適切な対策を検討しなければならない状況となっています。